ドイツ料理の隠し球「メットブルスト(生豚ひき肉)」を食べてきた

ドイツな日常

ソーセージ、シュニッツェル、シュヴァイネハクセ…、ドイツを代表する伝統料理には豚肉がよく使われている。そいういった料理は長年愛され続けているだけあって美味しいし、ビールにとてもよく合う。

ドイツ人の夫曰く、「伝統的なドイツの豚肉料理を食べたいなら、おしゃれなレストランじゃなくて昔ながらの食堂で食べた方がいい(特にお肉屋さんを併設しているとこ)」ということなので、私たちは美味しい豚肉料理が食べたくなると、お肉屋さん併設の食堂に食べに行く。

よく行く食堂の名前は「P」、私の義両親も昔から通っていた食堂だ。店主はここの3代目であり、75歳のおじいちゃん。代々この店の主人はお肉屋さんとしての免許も持っていて、毎週月曜日は「Schlachtfest」というイベントを開催している。「Schlacht」とは日本語で「食肉解体」の意味なので、つまり「食肉解体祭り」だ。正直、字面が怖い。でも保存手段が限られていた昔において「Schlachtfest」は、新鮮なお肉が安心して食べられるという特別な時だったはずで、そう考えると食肉解体がある種のお祭りだったのは充分理解できる。

季節関係なく食品の保存方法が確立された今でもこの「Schlachtfest」は「新鮮なお肉を食べれる日」として楽しまれていて、だからやっぱりこの食堂も月曜日が一番忙しいらしい。

ここでは新鮮なお肉が食べれるこの日に、みんなが楽しみにしているものがある。それが「Schweinemett(豚のひき肉)」である。「新鮮なひき肉でハンバーグでも作るのか?」一番最初、私はそう思った。しかし出てきたのはこれ。

どーーーーーん

Schweinemett
初見では戸惑って正解

生の豚ひき肉がドイツパンに塗られている………

「絶対に生では食べてはいけない…」と、日本であれだけ口酸っぱく言われてきた生の豚肉が、とってもカジュアルにパンに乗せられていた。上には切った生玉ねぎなんかも散りばめられて、「まだ料理途中では……?」との疑念が拭えない。でも違う。これが完成形なのだ。

他のドイツ人は美味しそうにパクパク食べている。「いやぁ、ビール似合うぜ最高だな〜もぐもぐ」という感じで。そう、日本人にはにわかに信じがたいが、ドイツではこの生豚ひき肉が結構よく食べられているのだ。

ドイツ人と豚肉①
おまいう大賞受賞

ドイツ人、生豚に寛容なのに生魚には非常に厳しい視線を向けることも多い。頑固に「ワシは生の魚は食べないんじゃ‼︎なんだかよく分からないけど危なそうなんじゃ‼︎」と意見を表明するお年寄りも結構いる。でも最近の寿司人気で若い人には生魚に抵抗がない人が増えているのは個人的に嬉しい。

さて「Schweinemett」を食べてみた。これが結構食べやすくて驚く。ネギトロにも形容されることもあるが、やはり匂いは魚と比べると格段に少なく、タレなしユッケに塩を加えて玉ねぎを乗せたようなあっさりさ。意外にドイツパンにも合う。初回は「豚の生肉を自ら選んで食べたんだ、死んだって文句は言えない」そう思いながら完食したが、現在まで数回食べてまだ生きてるので、ものすごく危険なものではないのかもしれない。(まだ疑ってる)

それもそのはず、ドイツではひき肉の取り扱いには厳しい決まりがあって「Hackfleisch-Verordnung(ひき肉令)」を遵守する必要があるので、生ひき肉を提供するには色々とやらなければいけないことが多い。(ドイツ人は「ビール純粋令」とか法令をつくるのが好きだ)

内容としては「ひき肉は傷みやすくサルモネラ菌などが繁殖しやすいため、非常に繊細に扱いが要求される食品であり、解凍された肉からは作ってはならず製造当日のもののみ販売可能。食肉販売の保存カウンターの温度は7度以下にしなければならない…」などなど、細かく規定されている。

確かにドイツではスーパーのお肉屋さんでも注文してから肉の塊を挽いてくれることが多く、なるほどこの法令のせいなのかなと思う。そういう法令があると、まぁ何となく安心感はあるけれど。(守っているかは店次第)

「Schweinemett」は多分刺身が好きな日本人には、基本的にそんなに抵抗なく食べれるものだと思う。でも「絶対食べたい!」という強い想いと覚悟がある人以外、私は旅行者にはオススメしないなというのが正直なところ。例えば「Berliner Morgenpost(ベルリナー・モルゲンポスト)」の2018年11月14日の記事では「Warum der Verzehr von Mett so gefährlich sein kann(ひき肉を食べる危険性について)」という記事が出されていて、ロベルトコッホ研究所などが「細菌感染の危険」を警告している。やっぱり「何の心配もなしに食べてどうぞ」な食品ではないのだ。

日本の牛レバ刺しみたく、ドイツでも近い将来禁止されることがあるのかもしれない。でもそれまで私個人は時々楽しんでもいいかなと思う。ちなみにコロナ前にドイツに遊びにきた日本人のMちゃんはいまだに「メット最高に美味かった〜また食べたい」と言っているので、生の食品にはきっと独特な魅力があるんだろう。

コロナ感染後のこの頃に比べると、いろんな味が楽しめるようになってきて嬉しい。

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