日本語の呼び方の使い分けって難しいねって話

ドイツな日常

自分のこと、何て呼ぶのか問題。

例えば、私は自分のことを基本的に「あたし」と呼んでる。

日本語の一人称は他にも「わたし」「わたくし」「俺」「おいら」「僕」「おいどん」「朕」「ワシ」「あたす」「俺っち」「ぼくちゃん」「うち」「小生」「拙者」「吾輩」「某(それがし)」等と色々あるけれど、膨大な選択肢もドイツ語にしてしまえば「Ich(イッヒ)」になるし、英語にしたら「I(アイ)」となる。選択の幅は寂しいまでにきゅっと縮まる。

基本的には一人称が「あたし」ではあるけれど、もちろん常に「あたし」を使っている訳ではない。目上の人と話すときは自動的に「わたし」になるし、小さい頃は「みっち」と名前で呼んでた。

つまり日本語の一人称は、例えそれが自分自身を指す言葉であっても「他人との関係性」や「状況」(時には年齢)でどれを使うか決まる。

友達の前で自分を「俺っち」と呼んでいる人だって、上司の前に出れば自分を「わたくし」と名乗るし、恋人の前では「まさおはねぇ〜」という名前呼びかもしれなく、関西の地元に帰れば「ウチ」、忍者に転職したら「拙者」、猫になったら「吾輩」になる可能性がある。

そして例えば忍者になった彼が自分のことを「僕ちゃん」と呼んでいたら、やはりそこには明らかな違和感が生まれるわけで。日本人はこういった使い分けをなんとなく、何も考えずに自動的にやっている。

しかしドイツ語や英語の場合、一人称とは相対的に決定されるものではない。「何があっても自分は自分!」という考え方が軸になる。つまり基本的に相手が誰だろうと、どんな状況だろうと、相手との間にどんなに年齢差があろうと「自分自身」を表す一人称が変化することはありえない。

外国人が日本語を学ぶ際、何らかの一人称ははかなり初期段階で学ぶはず。けれど、きっとその使い方を本当の意味で理解し習得するにはするにはかなりの時間が必要だ。

友達に「ワンピース」の大ファンで主にワンピースから日本語を学び、ワンピースの新作が見たいがために日本語を勉強して、それなりに日本語が話せるようになったドイツ人女性Mちゃんがいる。

色白でブロンド髪の天使のような愛らしい顔立ちなのだが、彼女は唐突に「オレはコーラがのみてぇんだぜ‼︎‼︎」などと言ってきたりする。美女による突然の「オレ」呼びに動揺しないと言えば嘘になるし、語尾もかなり異彩を放っているのだが、これは彼女的に「I want to drink cola!(わたし、コーラが飲みたいな!)」の意味だったりするから難しい。

訳としては問題ない。でもこの日本語、彼女には何だか合わない。

Mちゃんはルフィが大好きなので、「オレ」は憧れの一人称。Mちゃんが今後日本企業に就職する場合は訂正するけれど、それまでは好きに話したら良いと思ってる。

しかしこの「立場や関係性、年齢差による言葉の選択」が一人称だけに留まらないのが日本語学習者を大混乱させるポイントだ。

おじいさんに会った話
人とすぐ仲良くなる夫

これもドイツ人の夫的には「ein alter Mann(ひとりの老齢男性)」と言いたかったそうだけれど、それって日本語だと「おじいさん」「おじいちゃん」「おじいさま」「御隠居」「じーさま」「ジイさん」「ジジイ」「翁(おきな)」「老夫」など色々出てきてしまう。

個人的に初対面の親切な老齢男性に対しては「おじいさん」くらいが無難では?と思うが、夫的には「ジイさん」の何がだめなのか良く分からない。「さん」が付いてるんだから、丁寧じゃないの?!と思ってしまう。

だって「お父さん」を「父さん」と言っても失礼ではないよね?と。確かにそうなんだけど。

役所に問い合わせ
ジイさんがあればバアさんもある

ドイツの役所の凄まじさについては後日書くとして、やはりバアさんだって「さん」がついてたら敬称だと思ってしまう。

そりゃそうですよね、だって「さん」をつけたら丁寧って授業で習うのだから、「鈴木」じゃなくて「鈴木さん」だよと。

そんな彼らに「「バアさん」というのは「年上であるバアさんに対してある程度の敬意を保ちつつも、そこはかとなくバアさんに対する素っ気なさが醸し出される言葉で使用用途はかなり限られる…」」なんて言ってもなかなか理解は難しい。

そしてジイさんとバアさんだけでなくこんなことも。

遅れてきた夫
付き合ってるんか?

「女性」という言葉だって基本的にドイツ語では「Frau(フラウ)」をよく使う。でも日本語では他にも「女」「女の人」「女人」「婦人」「ご婦人」「婦女」など色々あるわけで、むずいのがこれらを結構満遍なく使うところだ。

これを状況やその人との関係性で使い分けろって言われたら、外国語として日本語を学ぶ人にはかなり大変。そして「オンナ」や「オトコ」には「こいつオレのオンナだぜ」みたいな言い方のように「恋人」的な使い方も出来てしまうわけで。(ここに関してはドイツ語もちょっと似てるけれど)

うちの夫は仕事で日本語を使うこともあるけれど(出来ないなりに必死なノリで対応している)とりあえず私はいつでも丁寧な言葉を教えることにしている。

たとえそれで、相手との間に多少距離が生まれてしまったとしても、まず礼儀正しく話すことを心がける「タラちゃんスタイル」が一番無難だなと思っているから。仕事相手に「オレはよぅ」と話しかけてしまうよりマシなのだ。

ちなみに夫は結婚後に日本で挨拶周りをした際、私の恩師に対し「(みっちは)ワシのいいオンナだ」と発言して、周囲をまるごと一時停止させたことがあった。彼的には「いい奥さんです」と言いたかったのだけど、ドイツ語の「Frau」が「(一般的な)女」も「奥さん」も表せてしまうことから生まれた悲劇。「ワシのいい女」って語感の強さよ。

新幹線に乗る前に起きたあれこれはコチラ⇩

カツサンド様にひれ伏す夫の図
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